2023年6月にUPCA(Unified Patent Court Agreement)が発効される見込みです。
これによって、欧州単一効特許(Unitaryu Patent)と、欧州統一特許裁判所(Unified Patent Court)の運用が始まります。
欧州統一特許裁判所は、欧州単一効特許だけではなく、従来の欧州特許も裁判管轄権を有します。
しかし、従来の欧州特許に関して裁判管轄権が変わることを望まない特許権者もいるはずです。そのような特許権者のために、UPCAではオプトアウトと呼ばれる手続きが用意されています。
以下では、オプトアウトの概要と、そのメリット・デメリットを紹介します。
なお、欧州単一効特許及び欧州統一特許裁判所の概要はこちらを参照してください。


オプトアウトとは
オプトアウトとは、従来の欧州特許の裁判管轄権をUPCから除外する手続きです。
オプトアウトは、7~14年の移行期間中に申請できます。
オプトアウトは移行期間を過ぎると申請できなくなり、裁判管轄権がUPCに完全移行するまでの経過措置のようなものです。
裁判管轄権をUPCから除外することで、セントラルアタックによる特許権の一括取消を防ぐことができます。
なお、訴訟が提起されている欧州単一効特許はオプトアウトできない点は注意が必要です。
オプトアウト手続き
誰がオプトアウトできるか
オプトアウトができる人は特許出願人、あるいは特許権者、権限のある第三者(代理人)です。
欧州特許が共同出願である場合には、出願人全員でオプトアウトをする必要があります。
しかし、権限のない者でもオプトアウト申請できる点に注意が必要です。
ルールに矛盾しているように思いますが、特許庁は最新の特許権者を確認できないためという理由らしいです。
現状、権限のない者によるオプトアウト申請をアラートする仕組みはなく、公開された情報から自らチェックする必要があります。
いつからオプトアウトできるか
オプトアウトは、UPCAの発効3か月前から、移行期間(7~14年)の間に申請できます。
この3か月はサンライズ期間(Sunrise Period)と呼ばれます。
また、UPCに訴訟が提起されている欧州特許や、移行期間の最後の1か月はオプトアウト申請できないため注意が必要です。
現時点では、UPCAは2023年6月に発効予定ですので、オプトアウトはは2023年3月からできる見込みです。
どうやってオプトアウトするのか
オプトアウト申請は、UPCのCase Management Systemから申請できます。
ログインには電子証明書の取得が必要になるそうです。
オプトアウトの効果
オプトアウトの効果は、欧州特許の裁判管轄権からUPCを除外できることです。
UPCはまだ始まっていないため、裁判例の蓄積がありません。このため、提起された訴訟に対して、どのような判断がされるのか、判断の予測が難しい状態です。
予測の難しさのために、大事な特許権はオプトアウトしておくと考える企業も少なくなりません。
また、UPCを裁判管轄権から除外できることから、UPCが特許無効と判断することに伴うセントラルアタックの被害を防ぐことができます。
なお、オプトアウトをした欧州特許は1度だけオプトアウトを取り下げることができます。
一度オプトアウトを取り下げた欧州出願は再度オプトアウトすることはできません。
オプトアウトの恩恵を受けやすい欧州特許
移行国が多い特許
移行国が多い特許はオプトアウトの恩恵を受けやすい特許であると考えられます。
セントラルアタックの影響を抑制することができるからです。
移行国が少ない場合、セントラルアタックの影響はそれほど大きくなりませんので、オプトアウトによる恩恵は小さくなると考えます。
取消される可能性がある特許
取消される可能性がある欧州特許はオプトアウトの恩恵を受けやすい特許であると考えられます。
取消される可能性は、例えば、過去に異議申立てや無効審判等の手続きで取消しされたかどうかで判断できます。
過去に異議申立てや無効審判等の手続きで取り消しされなかった場合、今後も取消される可能性が低く、オプトアウトの恩恵はそれほど大きくないと考えられます。
一方で、過去に異議申立てや無効審判等がされていない特許権の場合、これらの手続きによって取消されるリスクがあり、オプトアウトの恩恵を受けやすい特許であると考えられます。