欧州単一効特許制度

2023年6月にUPCA(Unified Patent Court Agreement)が発行される見込みです。
これによって、欧州単一効特許(Unitaryu Patent)と、欧州統一特許裁判所(Unified Patent Court)の運用が始まります。
以下では、UPCAの発効によって開始される欧州単一効特許制度の概要を紹介します。
なお、欧州統一特許裁判所についてはこちら

スポンサーリンク

欧州単一効特許制度とは

欧州単一効特許とは、UPCAの発効により開始され、UPCAを批准しているすべての国に対して有効な特許を付与する制度です。
現在、UPCAを批准済みの国は17か国あり、その他の7か国も批准する予定です。
欧州単一効特許は、欧州における発明を安価で効率的に保護することを目的にしています。
欧州単一効特許は、これまでの特許取得方法を残しつつ、欧州での特許取得のための新たな選択肢を提供するものです。

従来の欧州特許との相違点

有効化(Validation)

欧州単一効特許では、欧州特許庁が特許査定を出した後に単一効申請を行うことで、欧州単一効特許を取得できます。
従来の欧州特許は、EPC加盟国毎に有効化(Validation)する必要があります。つまり、特許権が必要な国ごとに手続きを行う必要があるのでコスト・労力共に高くなっていました。
欧州単一効特許を活用することで、EPC加盟国毎に有効化する必要はなく、手続きを一本化できます。
ただし、UPCAを批准していない国は欧州単一効特許ではカバーされません。したがって、これらの国は別途有効化(Validation)する必要があります。

管轄裁判所

欧州単一効特許の管轄裁判所は、統一特許裁判所(UPC:Unified Patent Court)と呼ばれる裁判所が管轄権を有します。
このため、欧州単一効特許を使えば、フランスでの特許権侵害も、イタリアでの特許権侵害も、UPCAを批准した国の特許訴訟は統一特許裁判所でまとめて審理できます。
従来の欧州特許の管轄裁判所は、各国の裁判所でした。このため、フランスでの特許権侵害はフランスの裁判所に、イタリアでの特許権侵害はイタリアの裁判所に出訴する必要がありました。
なお、統一特許裁判所は従来の欧州特許に対しても管轄権を有します。

欧州単一効特許のメリット

更新料の低減

欧州で発明の保護を求めたい国が多い場合、欧州単一効特許を選択することで特許の維持費用(更新料)を抑制できます。
だいたい4~5か国程度で保護を求める場合、欧州単一効特許のほうが安くなると言われています。
特許の維持費用は国によって異なるため、保護を求めたい国の更新料を確認して、どちらが安くなるか比較検討することが望ましいと考えられます。
参考:欧州単一効特許の維持費用

管理負担の軽減

1つの欧州単一効特許の効果は、UPCA批准国全体に及ぶので、国ごとに管理する必要がなく、管理負担が軽減されます。
従来の欧州特許は国ごとに特許事務所の代理人に更新手続きを行ってもらう必要がありました。しかし、欧州単一効特許では、どこか1つの国の特許事務所の代理人に欧州単一効特許の更新手続きを行ってもらうだけで済むようになります。代理人手数料や、社内的な管理負担が大幅に軽減できると考えられます。

訴訟費用の低減

統一特許効特許は、1回の訴訟で欧州単一効特許が有効な国全てに対して権利行使できます。
したがって、国ごとに弁護士を立てて訴訟を提起する必要がありませんので、訴訟費用を削減することができます。

欧州単一効特許のデメリット

セントラルアタック

欧州単一効特許は、1つの特許権でUPCA批准国すべてに効力が及びます。
しかし、欧州単一効特許は無効審判等で無効にされた場合、全ての批准国で一気に特許の保護を失うことになります。
これをセントラルアタック(従来は商標のマドリッドプロトコルで用いられていた言葉です)と呼ぶ場合があります。
一方で、従来の欧州特許のように国ごとに特許権を有効化していた場合、国ごとに無効する必要がありますので、一度にすべての加盟国で特許の保護を失うことはありません。

更新料の硬直性

欧州単一効特許の更新料は、出願人が保護を求めたいと思っている国の数に関わらず一定です。
したがって、フランスだけ、イタリアだけというように、保護を求めたい国が少ない場合には、欧州単一効特許の更新料は高くつく場合があります。
また、途中で保護を求めたい国を減らして更新料を削減したいと思っても、できません。
従来の欧州特許では、更新料を納付する国を減らすことで更新料を削減できましたが、欧州単一効特許では全ての国で保護を求めるか、保護を求めないかの2択になります。

欧州単一効特許に適している特許

欧州単一効特許のこれらのメリット・デメリットを踏まえると、下記のような特許が欧州単一効特許に適していると考えられます。

保護を求めたい国が多い特許

有効化された国の数が多い場合、更新料や管理負担が増加します。
これらのコストを抑制するためには、欧州単一効特許は有効であると考えられます。

重要度の低い特許

重要度の低い特許も欧州単一効特許に適していると考えられます。
欧州単一効特許はセントラルアタックのリスクを有していますので、このリスクを回避するためには各国ごとに有効化する必要があります。
欧州単一効特許には、セントラルアタックを受けても、事業などへの影響が小さい特許が望ましいと考えられます。

タイトルとURLをコピーしました